shunchi極楽日記


兄の人生

しゅんちには1歳上の兄がいる。
普段は物静かだが、時々くどくどとウンチクを垂れるのが得意な兄である。
高卒で三流会社に勤めるしゅんちとは違い、兄は一流大学出の一流企業で働くエリート街道まっしぐらの男である。

兄は小さい頃から背が高く、ずっとチビだったしゅんちと比べると2〜3歳ほど離れた兄弟に見えた。
運動をさせても勉強をさせても優秀だった。
学生時代はテニス部で部長を務め、兄を中心としたチームは地区大会で優勝。県でベスト8の成績。
そして勉強の方は全国模試で何度も成績優秀者として全国に名を轟かせた。

スラッと背が高く、ルックスもそこそこ。
勉強も運動も得意の上、性格的にも優しい兄はよくある学園ドラマに出てきそうなカリスマ的な人気者であった。
更に女性にあまり興味が無く、クールなイメージが熱狂的な女性ファンを増やしていった。
そんな噂は他校にも及び、まるでアイドルのような高校生だった。
しゅんちも自分の高校で「お兄ちゃんは元気?」と女の人によく質問されたものである。
バレンタインはもちろん沢山貰い、更に知らない人からも手作りのチョコをもらった。
しかし、兄はチョコ嫌いなのでチョコ好きのしゅんちが食べてやった

そんな兄は高校卒業後、超1流大学に進学。
そして、超1流企業に就職。
新入社員のくせに部下が十数人付いた。
9年間下っ端のしゅんちとはえらい違いである。
高学歴、高収入、高身長。
誰がどう見ても羨ましく思う兄の人生である。

しかし、しゅんちが身近に見ていた兄の人生はそんな華やかなものではなかった気がするのだ。

・・兄は小さい頃はヒステリーで気の短いわがままな子だった。
欲しい物はどうしても手に入れたい。やりたい事はどうしてもやりたい性格だった。
そして、やたら理屈っぽく母によく反抗していた。

小さい頃・・・

クリスマスが近づき、プレゼントが早く欲しかった兄。
そしてサンタの存在を思いっきり信じているしゅんちの横で


「物理的にたった1日で世界中を回るなど不可能だ。」


と親に詰め寄り、ついには白状させしゅんちの夢もろとも吹っ飛んだ。
そして、その日にプレゼントを買わせた。

更に・・・

ファミコンを買うことに反対していた親に対し


「なぜ、自分達のお金を自由に使わせてくれないんだ?」


と親に詰め寄り、ついには説得し、更に足りないお金を補助させ上、ファミコン購入にいたった。
ちなみにそのファミコン8割がしゅんちが使った。

兄はゲームが下手でスーパーマリオでは誰よりも早く穴に落っこちていた。
ドラクエでは先に進むのが怖く、同じ場所でずっと同じ敵(マドハンド)相手にコツコツとレベルアップしかできなかった。

兄は人一倍臆病なのである。

赤ちゃんの頃は何か物音がするだけで泣き叫んで親を困らせていた。
仮面ライダーを見ていた時も怪人が登場するシーンが怖くて隣の部屋まで逃げる。
更に、炭酸が怖いといってコーラが飲めなかった

ある時、年上の従兄弟に勧められ怖がる兄を横目にまだ幼いしゅんちが軽々と飲んでしまった。
兄に言わせるとこのコーラ事件が挫折人生の始まりだったという。

・・学校では誰よりも真っ先に手を挙げる積極的な態度で先生からの人望は厚かった。
しかし、どうしても超えられない秀才が同じクラスにいたのだった。

どんなに兄が良い成績をとってもその彼が必ずその上をいってしまう。
更にその彼は勉強だけにとどまらず、考え方まで大人びてしっかりとしていた。
兄はその彼の天性の才能のようなものを感じてしまい、それに比べ自分の才能の無さに気付き愕然としてしまったのだった。
ここでも挫折を味わうのだった。

野球好きだった兄はどうしてもリトルリーグに入り、頭を丸め「一休さん現る」として周囲を爆笑の渦に巻き込んだ。
父も野球好きだったので熱血親子のように一緒になって練習をした。
しゅんちも一緒に付き合ってみたが、父のあまりのスパルタっぷりについてゆけずやめた。
しかし、兄はそのスパルタ父に付き合いよくがんばった。

兄は特に守備練習が好きだった。
壁にボールを当てて跳ね返った玉をキャッチする練習をそれこそ雪の降る日まで毎日やっていた。
しゅんちが家でこたつでファミコンに夢中になっている時にも日が暮れるまで続けた。

しかし、兄にはバッティングセンスが無かった。

守備こそは誰よりもうまい兄。
しかし、気弱な性格からくるのかどうしても打てず、三振の連続。
いくら守備が良くても結局は打てなくては良い選手にはなれないのだ。
そこでも挫折を味わった兄は悔し涙を流し、野球の道を断念した。

・・中学に通い、テニス部に入った兄はそこで才能を開花させることになる。
野球で培った反射神経と元々肩の強かった兄はサーブが早い選手ということで県内でも有名だった。
ずっと坊主頭だった兄はフサフサと髪の毛を生やかし、背も更に伸び始めていた。
勉強も変わらず続け、成績はトップクラス。
実力、人望を認められテニス部では部長になった。
気が付くと、学内ではモテモテの有名人だった。

しかし、子供の頃に味わった数々の挫折が自己納得させなかった。

兄はいつも余裕が無く、どんなに女の子に声を掛けられても相手にする余裕がなかったのだ。
「モテるのに相手にしない」そんな姿が更にカリスマ性を高めていった。

高校に進み、兄は勉強や運動はそのまま磨きをかけ、更におしゃれにも気を使った。
誰よりもテニスが強く、誰よりも勉強が出来る。
そしておしゃれでルックスも良し。
テニス部では勉強もテニスも兄にかなう者は誰もおらず、カリスマ兄はいよいよ本物になった。
テニス仲間は友人であるくせに、誰もが友情というよりもむしろ崇拝しており、一種異様な雰囲気だった。

そして大学に進学した兄は多少自分に疑いを持つものの徐々に自信をつけていった。
周りからは勉強がやたらできる上に、テニスもやたら強く、そしてなおかつかっこいい。
どこからどう見ても完璧に思えた。

兄もついに自信をつけ、有頂天になりかけた頃、現在の嫁のアコちゃんと運命の出会いをする。

今まで女性には目もくれなかった兄。
その気になればいつでもどうにかなると思っていた。
しかし、アコちゃんには


何度もフラれた。


今まで築きあげてきた自信や実績がガラガラと崩れた瞬間である。
兄は理由がわからなかった。

兄は自分に自信が無かった。
小さい頃に見せたどうしようもない短気でわがままな性格を嫌っていた。
不器用で才能の無い自分にどうしても自信がもてなかった。
そうやって自分の嫌いな部分を色々な事で着飾っていたのだ。

昔から欲しい物はどうしても手に入れたい兄である。
アコちゃんを諦めなかった兄は何度もアタックしつづけた。
最後まで諦めなかった兄はようやく付き合うことができたのだ。

アコちゃんに出会った頃から兄は変わった。
今まで背伸びをし続けてきた兄はようやく落ち着いて立って歩くことができた。
現在の無口で物静かで時々くどくどとウンチクを垂れる兄はここで完成したのだった。

しゅんちは兄の反面、努力をしない人である。
そのおかげで勉強も運動もロクに出来なかった。
しかし、兄だけはしゅんちに対していつも優しかった。
出来の悪い弟持った兄だが、決してしゅんちをバカにしたり見下すことはなかった。
親に見限られどうしようもない頃も、兄だけは認めてくれた。


「おまえはやれば出来るのに、なぜやらないんだ?」


「俺なんかよりも、よっぽど頭がいいはずなのに。」


当時そんな事を言ってくれたのは兄だけだったのだ。

・・兄がアコちゃんと結婚することになった。
結婚といえば人生で一番大事なイベントである。
そして、その結婚披露宴の司会という大役をしゅんちに託したのだった。

兄の友人達は全員がかなり優秀である。
1流大学出の1流企業に勤める人がズラリである。
そんな、元・生徒会長だったような友人達からは選ばず、



誰からも期待されなかった男に任せたのだった。


しゅんちとしては兄弟の絆を感じずにはいられない出来事だったのである。

自分の事をいつも過小評価していた兄。
それなのに他人をすぐに認め、自分には無いものを持っていると他人をうやまう。


自分には厳しく、他人にはやさしく。


これは誰にでもできる事ではないと思うのだ。
誰だって自分には甘く、他人には厳しい、それが普通の人である。
そんな自分に厳しい兄を尊敬してしまうしゅんちなのであった。

ある日・・・

家族旅行で温泉に行った時のことである。
風呂上りにビールを一杯やろうと兄を誘うしゅんち。

しゅんち「兄ちゃん兄ちゃん。兄ちゃん。」

兄はいつも3回くらい呼ばないと返事をしない。

兄「おう。なんだ?」

しゅんち「ビールの歴史について語ってよ。」

しゅんちはこうやって兄にわざとウンチクをしゃべらせるのが好きである。

兄「んま〜・・・昔はビールと言えば「キリンラガー」だったのよ。」

しゅんち「え・・・そうなの?」

兄「アサヒが喉が渇いた時にスカッと飲めるビールってことで「スーパードライ」を開発したのよ。」

しゅんち「ああ〜今一番売れてるよねこれ。」

兄「このビールが革命を起こしたわけだ。」

しゅんち「へぇ〜・・・」

兄「昔は酒と言えば日本酒だったのよ。ビールは高級でさ。」

しゅんち「なるほど・・・。」

兄「このキリンラガーが日本酒への布石になるわけだ。」

しゅんち「ふ、布石・・・?」

兄「まあ、「一番絞り」も売れたけどな、やっぱりキリンのな・・・くどくどくど」

しゅんち「へ、へぇ〜・・・」

・・・

こんな兄はしゅんちにとって自慢の兄なのである。

極楽日記第1部を締めくくるお話しでした。
前から書こうと思ってて5年目にしてようやく実現したのね

人の人生は色々だな〜としみじみ思ってしまいます。

この話を書いた後、ちょうど兄が実家に帰ってて、もの凄い照れくさそうにしてたのよ(笑)

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