しゅんちはラーメン好きである。 ある日、お気に入りのラーメン屋に行った時のことである。 そのラーメン屋はチェーン店ではなくこじんまりとした店で結構年配なオヤジがやっているのだ。
オヤジ「へい!らっしゃい。」
入店するとしゅんちとオヤジの目が合う。 この店には結構通っているのでオヤジは「おっまた来たね」という顔をする。 しゅんちも「また来ました」というような顔で少しだけペコリと頭を下げる。
ラーメン屋というのは結構味にムラがある。 この店も例外ではなく、その日によってかなりスープの出来が違うのだ。
オヤジ「へい!おまちどうラーメン一丁!」
早速ラーメンが運ばれてきた。 さて、今日の出来はどうだろうか・・・?
ずるっ・・・ずるるる・・・
うまい!
今日は当たりだ!
しゅんちは無言のまま少し大げさにうんうんと頷く。 オヤジが受け取ったかどうだかはわからないが、これがしゅんちからオヤジへのうまかったコールである。 チラッとオヤジを見るとまたも目が合う。
「今日の出来は良かったかい?」「今日は最高っすよ!」と目で会話を交わす。 一瞬オヤジは微笑んだように見えた。
その時、新規客がのれんをくぐって入店してきた。
オヤジ「へい!らっしゃい!」
客「2人ね。」
オヤジ「テーブル席へどうぞ!」
飲み会帰りのサラリーマン風な中年2人組み。 しゅんちの横に座ると水が運ばれる前に瓶ビールを頼んだ。
客「・・でさぁ〜部長の野郎がよおー・・・」
どうやら会社の話で盛り上がってるらしい。
店員「はいビールお待たせしました。」
客「おっと注文しなきゃなぁ〜。」
2人はキョロキョロと店内に掲げられたメニューを見る。
客「あれ〜〜?味噌ラーメンないの?」
店員「すみません。うちは味噌ラーメンやってないです。」
客「本当に?じゃあ、チャーシュー麺は?」
店員「大盛りはありますが、チャーシュー麺もちょっと・・・」
客「げーっなんだそれ?しょうがねえなぁ・・・じゃあいいわ、普通のラーメンで。」
店員「はいかしこまりました。ラーメン2つですね。」
客「ったく・・・何にもねえなこの店は・・・。本当にラーメン屋かよ。」
お気に入りの店を罵られピクッと反応するしゅんち。
またもやチラッとオヤジを見ると苦笑いしているようだった。
「困った客ですね・・・」「まあしょうがねえや・・・」と目で会話。
店員「お待たせしましたラーメン2丁です。」
客「本当は味噌ラーメンがよかったけどなぁ・・・。」
まだ愚痴をこぼしながら箸を割る。
客「まあ、仕方ねえな。」
ずるずるずる・・・
客「・・・・。」
ずるずるずるるるずるずるずるずるずっるずぞぞぞーっずぞぞーーっじゅるじゅるーじゅるじゅるーーずっぞぞぞぞ〜〜〜
かなりうまかったらしい。
へへん!どうだ!みたか!うまいだろ!味噌ラーメンだぁ〜?それはこの店には必要ないんだよぉぉ〜〜〜!
・・・と、平静を装いながら心の中で叫ぶしゅんちであった。
食べ終わったあと会計をしてもらうしゅんち。
店員「はい!500円です。」
お金を渡すと最後にオヤジと目が合う。
「今日はうまかったっすよ」としゅんち。
「また来てや」と返すオヤジ。
しゅんち「ごちそうさまでした。」
最後に初めて言葉を発するしゅんち。 この言葉には「今日はうまかったです。また来ます。」という意味が精一杯込められているのである。
ラーメン屋オヤジとの無言の会話。
男の美学である。
実は思い過ごしだったりして。
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