駅の近くにあるものといえば「駅前そば」。 ダシのよい香りが電車を降りた後の空腹時にはたまらないものである。 しゅんちも手軽さとジャンクフード的なおいしさが大好きである。
・・ある日、仕事中に昼時になりどこか食べるところはないかと探しすしゅんち。 そこは田んぼが広がる田舎道で、お店らしきものは見当たらなかった。 半ば諦めモードになりコンビニ弁当直行かと思いきや、フト食堂らしき建物を見つけた。
「駅前そば」
田んぼのど真ん中で駅前そば発見。
駅なんてどこにもないよな・・・と違和感と不信感を抱きつつも気がつけば車を駐車場に停めるしゅんち。 そして恐る恐る店内へ。
客は不信感そのままに誰もいない。 しかし、おいしいそうなダシのあの香りは間違いなく「駅前そば」であった。
しゅんちはカウンターに腰掛けると、早速天玉そばを注文した。 かき揚げに生玉子をトッピングした駅前そばの花形メニューである。 ダシでふやけたかき揚げを玉子と絡め、そばと一緒に豪快にすするのが醍醐味である。
おやじは注文を受けると手際よくそばを作り、しゅんちの前に置いた。 見た感じも駅前そばと全く同じである。 更に駅前と同じようにネギは乗せ放題らしいのでたっぷり乗せてやった。
とにかく味だな・・・・
箸を割り、おもむろにつゆをすする。
ずずず〜〜〜・・・・
んまい!
こりゃあ駅前と一緒だわ!
安心したしゅんちは天玉そばを勢いよくすするのだった。
そして終盤に差し掛かった頃・・・
おやじ「あの・・・」
しゅんち「・・・・ん?」
おやじ「お客さん・・・」
お客さんはしゅんち1人である。 おやじの独り言でなければ間違いなくしゅんちに話しかけている。 どんぶりの下から恐る恐るオヤジの顔を見上げた。 何か食べ方が悪かったのだろうか・・・?
しゅんち「あ・・・はい?」
おやじ「お客さんはここ初めてだよね?」
しゅんち「え・・・っと、この店は初めてですよ。」
おやじ「なんで来たの?」
しゅんち「へ・・・?」
なんとも不思議な質問を投げかけるオヤジである。 お店に来て「なんで来たの?」なんて初めての体験である。
しゅんち「い・・・いやぁ〜たまたま通りかかったから・・・。」
おやじ「通りかかったんだね。」
しゅんち「ええ・・・あと駅前そば好きだし。」
おやじ「ん〜〜・・・。」
なんだか悩ましげにうなり声を上げるおやじ。 はて・・・どうしたのだろうか。
おやじ「ここさ、駅前そばの評判の店ではあるんだけどさ、客足はイマイチなんだよね。」
相談受けちゃった。
おやじ「お客さんのように駅前そばのファンって人はよく来てくれるんだよね。」
しゅんち「フンフン・・・なるほど。」
おやじの話を聞きながら底に残ったつゆを飲み干すしゅんち。 確かにこの味に惚れ込んでいる人は多いはずである。
おやじ「味は間違いないんだよね。」
しゅんち「はい。駅前と一緒でうまかったですよ。」
おやじ「値段だって駅前と合わせてるんだよね。こっちの方が経費はかかるってのに。」
しゅんち「ああ〜・・・そうですよね。同じ値段だし手軽ですよね。」
おやじ「どうしたもんかねぇ〜・・・。」
しゅんち「んんん〜〜〜」
しゅんちはつまようじで歯に挟まったネギをシーシー取りながら考える。
しゅんち「そこのパチンコ屋のお客とかは?」
おやじ「ああ・・・昼時にはチラホラ来てくれるけど、歩くにはちょっとだけ遠いみたいなんだ。」
しゅんち「う〜〜〜む・・・」
おやじ「おやつ感覚で食べに来てくれる人も多いんだけど・・・昼飯とは違うみたいで・・・。」
しゅんち「なるほど・・・・。」
確かに昼時だというのに閑古鳥が鳴いている。 どうしたものだろうか・・・。
・・こうしておやじと一緒に悩ましくしているうちに昼休みは終了。 後ろ髪を引かれる思いで店を出るしゅんちであった。
そして、午後は仕事そっちのけで色々と案を考えるしゅんちだった。
・・・駅前そばってのは手軽さがウリだからなぁ〜。
お店に行ってまで食べるっていうものでもないような・・・。
・・・まてよ、駅そばってお父さんしか食べないイメージだよな。
もしかしたら家族が食べたがるんじゃないだろうか・・・。
・・・食べに来やすいような「駅前の味をご家族で!」なんて垂れ幕作るとか。
・・・あとはお父さんが軽く飲んだ帰りに寄ってくような
・・・ああ〜〜〜立地場所が歩いていけるところじゃないしなぁ〜〜
・・・やはり昼時をなんとかしないと。
やっぱりそばだけではボリューム不足だよな・・・。
普通のご飯だったら面白くないしなぁ・・・。
あのうまいつゆを使って炊き込みご飯なんてどうだろうか・・・?
・・・そのご飯でおにぎり作って、そばと一緒に「ランチセット」なんていいかも!!
おお!こりゃ名案だ!
救世主は炊き込みご飯だ!!
1人車内で大興奮のしゅんちであった。
そして数ヵ月後・・・
炊き込みご飯案を伝えることなく時が過ぎてしまった。 そして、忘れかけてた頃に道を通りかかると
店潰れてた。
商売の難しさを肌で感じてしまったしゅんちであった・・・。
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