冬になると長野県民はタイヤを履き替える。
毎年ながら替えるタイミングが難しい。
スタッドレスはどんどん磨り減っていくから雪が降るギリギリまで見極めるのが貧乏性の信州人なのである。

雪が降る前日に替えるのがベストだが、降ったとしても大雪じゃなければあまり意味が無い。
つまり大雪で車が滑りそうな日の前日に替えるのがベストなのである。
しかし、そんなにタイミング良くいかないのである程度ところで替えてしまうのだが。
今年は意外に早くに雪が降り、寒くなってきたので早めに交換することにしたのだった。

しゅんちは自家用車はスタンドで替えてもらっている。
しかし営業車は、経費削減が叫ばれる昨今・・・
いや昔から経費削減が叫ばれているしゅんちの会社は自分で替えるというのがルールなのである。

・・ある日の夕方、後輩と相談して夕方一緒に営業車のタイヤを交換する約束をした。
下っ端の仕事にタイヤを皆が替えやすいように全員のタイヤを収納庫から出しておく作業がある。
後輩１人では大変だと思ったしゅんちはその作業を手伝うことにしてやった。
更に、その勢いで２人の営業車のタイヤ交換も一気にやってしまおうという作戦である。

普段からやる気のない後輩に激を飛ばし作業に取り掛かるのであった。
まず２人は皆のタイヤを順々に外に出した。

後輩「なんか、めんどくさいっすねぇ〜。じゃあ先輩、後お願いしますね〜。」


しゅ「・・さっさと替えちまおうぜ。」


後輩のやる気無い冗談を軽くスルーするしゅんち。
やる気のない人を見ると妙にやる気が沸く反面教師なしゅんちであった。

そして、順番に営業車のタイヤを交換する。
２人でやるとそれなりに効率が良い。
しゅんちの営業車のタイヤ交換が終わり、次は後輩の営業車である。
後輩の営業車はかなり古い。
タイヤも磨り減って今年ギリギリといった感じである。

しゅ「しかしこの営業車もかなり古くなったよな。」

後輩「本当ですよ。俺だけッスよこんな古いの。」

後輩の愚痴を聞きながら作業は進む。
軽くナットを緩めた後、ジャッキで車体を持ち上げた。

そして、タイヤを・・・



あれ？



あれれ？



しゅ「は、はずれなくなってるぞ！？」

後輩「ま、マジッスか〜？」

どうやら、サビやらなんやらで固着してしまったようだ。

後輩「ちょっと蹴ってみますわ。」


ガンッ　ガンッ


後輩が軽く蹴ってみるがビクともしない。

しゅ「やべえなぁ・・・これはかなり固まってるぞ。」

後輩「じゃ・・・じゃあ、Ｍさんに聞いてみますね。」

後輩は内線電話でＭさんを呼び出した。

どうした？という面持ちでＭさんが二階から降りてきた。
事情を説明するしゅんち。

・・・

Ｍ「んー・・・クレ５５６でも吹き付けてみ？」

しゅ「ああ。なるほど。」

潤滑剤をホイール周りに散布。



シュシューー　シューッ・・



Ｍ「ナットにはかけるなよ。走行中にタイヤはずれて飛んでくぞ。」

しゅ「おお。面白そうですね。かけるか。」

後輩「マジ勘弁してくださいよぉ。」

Ｍ「わははは！」

後輩を軽くからかいながら、ホイール周りに吹き付けていく。


・・・


しゅ「よし！蹴ってみるか！」


ガンッ　ガンッ　ガンッ


再び蹴ってみるがやはりビクともしない。

後輩「うわぁ〜〜・・・ダメですね。」

Ｍ「あちゃーこりゃ、相当固まってるな。」

やはり古い車だけあって、相当錆び付いているようだ。

しゅ「ん〜〜こりゃあ・・・前輪だけノーマルタイヤにしとくか？」

後輩「え〜・・・大丈夫ッスかねぇ？」

Ｍ「スピンするかもな。わはは」

しゅ「おお。カーブで華麗なドリフト決めれるな。」

後輩「うわ〜・・・他人事だ・・・。」

後輩は諦めきれずタイヤを蹴り続けた。


ガンッガンッ


後輩「ジャッキで持ち上げてるじゃないですかぁ。だからあんまり蹴るのも怖いんですよね。」

しゅ「そうだよなぁ。なんか危険だよな。」

営業車はジャッキで持ち上げた不安定な状態である。
蹴った勢いで支点がずれたりして車両が落ちたら大変である。

後輩「明日から営業できなくなっちゃいますよぉ。」

しゅ「いやまてよ・・・。」

後輩「え？」



しゅ「むしろ壊れたら新車に替えてくれたりしてな。」



後輩「・・・・。」



ガァァァァアン！！！！



ガコンッ・・



後輩「あ・・・はずれた。」


しゅ「お、おまえ・・・い、今の蹴り凄かったな。」

後輩「い、いや・・・」

しゅ「壊そうとしたろ？」

後輩「は・・はい。むしろ。」



人は思わぬところで力を発揮するものである。