第2日目 AM9:00〜
今日の予定は秋田観光をした後、青森に向かう予定である。
若者チームとナイスミドルチームと車二台に別れて行く事になったのだった。
若者チームの運転手はなんと兄。
さすがに前日の功労者のしゅんちは運転を免除されたのだった。
ハンドルを握る兄は相変わらず背筋90度直角であった。
そして、しゅんちはここぞとばかりに後部座席にてふんぞり返り、うたた寝を始めるのだった。
・・1時間ほどして最初の観光地「角館(かくのだて) 武家屋敷」に到着。
「武家屋敷」
みちのくの小京都と呼ばれる角館町。秋田藩で最も発展した城下町とのこと。
当時の武家屋敷がそのまま残ってるということで有名らしい。
「風情のある風景」
兄「ここは佐竹藩が栄えていたんだよなぁ〜。」
歴史に詳しい兄。
普段はあまり役に立たない存在だがこの時ばかりは威力を発揮したのだった。
しかし逆に歴史が弱いしゅんち。
佐竹藩がどーとか言われてもさっぱりわからず。
「お土産屋も風情があります」
父が思惑通り、軽食屋で売っていたソフトクリームに飛びついた。
珍しい種類のごまソフトを購入。ごまの香りと香ばしいお味。ゴマ好きにはたまらない一品だろう。
「秋田弁爆裂」
アコちゃんが秋田弁の看板を発見。
アコ「みせっこ・・・によって・・・みてたんひえ?」
ぎこちない感じのアコちゃん。
しゅんち「アコちゃんこうじゃない?」
軽く咳払いをししゅんちトライ。
しゅんち「みせっごによっでみでたんびえぇえ〜」
アコ「ああ。濁点つけるのかー!」
しゅんち「そうそう!」
アコ「なるほどー。」
そして二人で秋田弁を練習するのだった。
しゅんち「みせっごによっでみでたんびえぇえ〜」
アコ「みせっごによっでみでたんびえぇえ〜」
・・・・。
本当かな・・・?(自信なし)
PM 11:30〜
角館を後にした一行は八幡平(はちまんたい)に向けて出発。
八幡平とは秋田県と岩手県の境にある地域である。
今日の宿は「八幡平ロイヤルホテル」なのである。
運転は変わらず兄。助手席はアコちゃん。そして、しゅんちは後部座席で外をぼけーっと眺めていた。
しばらく国道を走っていると、前方に何やら人だかりを発見。
どうもゼッケンを付けているのでマラソンランナーのようだ。
しゅんち「おや、なんだありゃ?」
アコ「なんかの大会なのかな?」
しばらく走ると垂れ幕を発見。
どうやら、「田沢湖マラソン」という大会が開催されているらしい。
一年に一度のイベントらしく、今日がちょうどその日だったのだ。
アコちゃんは元・陸上部で長距離ランナーだったせいか熱い気持ちを蘇らせていた。
一方しゅんちは「1km走るのも無理だな・・・」と思いつつ、見ているうちになんだかこっちも疲れてくるような気持ちでランナーを眺めた。
兄はランナーの邪魔にならないように緊張を増し、よりいっそう背筋を伸ばし+5度ほど前のめりになって車を走らせるのだった。
田沢湖マラソンを過ぎた後、道は山道に入る。
しばらく走ると、兄がなにやら発見したらしく声をあげる。
兄「お!ババヘラアイスだ!」
なにやら道の脇におばさんがクーラーボックスを横に置き、パラソルを日よけに1人ぽつんと座っているのが見えた。
アコ「あ、本当だ。ババヘラアイスだ。」
兄「しゅんち知ってるか?ババヘラアイスって。」
しゅんち「なんじゃそれ?」
兄「おばさんが道端でアイス売ってるんだよ。」
今時、道でアイスを売ってるのは珍しい。
しゅんち「ババヘラ味ってどんな味だ?」
ハバネロという唐辛子は良く聞くが、ひょっとして辛いアイスなのだろうか?
兄「いやいや、違うよ。「ババヘラ」ってな・・・
しゅんち「うん。」
兄「ババァがヘラを使ってアイスを盛るからババヘラなんだってさ。」
とんでもねえネーミングだ。
どうやら、ババヘラアイスというのは秋田名物らしく、道のあちこちで見られるらしい。
それにしても人気の少ない山道でおばさんがぽつんと座っているのでかなり不気味である。
どんな客が買ってゆくのか興味をそそられたのだった。
しゅんちも食べてみたいような食べたくないような微妙な気持ちのまま通り過ぎていくおばさんを眺めるのだった。
・・時刻はお昼を過ぎ、かなり腹が減ってきたので一行は峠の途中の食堂に入る。
そこで秋田名物の稲庭うどんを食べようというのである。
「稲庭うどん」
稲庭うどんとは讃岐うどん、名古屋きしめんにならぶ三大うどんのひとつであるらしい。
感じとしては細いきしめんのようで上品な感じ。
味は薄味、麺は細く平べったくやわらかいにゅう麺のようなイメージである。
雰囲気は味わえたが、やはり峠の食堂とあってかもっとおいしい専門店があるとユッキーが教えてくれた。
うどん好きでもあるしゅんちは興味をそそられるのだった。
昼食を食べた後、再び峠道に戻り八幡平に向けて出発。
天気は良く、紅葉にはまだ早いが緑溢れる峠道はかなり気分がよかった。
今日は最高のドライブ日和だろう。
「八幡平 ゆげモウモウ」
一行は八幡平岳登山口で車を降りる。どうやら頂上まで登る計画らしい。
もうすでに山の頂上付近まで来ているのでそれほどの距離はないということなので安心安心。
またもや父の強行的な計画かと一瞬冷や汗のしゅんちであった。
皆は張り切った様子で登山口に向かうのだった。
実は八幡平は日本百名山の一つであり、有名な山らしい。
しゅんち「ところで父ちゃん。百名山って何?」
父「ん?なんだ?」
しゅんち「国で指定された名山って事?」
父「いやいや違う違う。」
しゅんち「じゃあ標高とか何か基準で決まってるの?」
父「そうじゃなくてな、有名な作家であり登山家の「深田久弥」って人がいてだな、その人が決めたんだな。」
しゅんち「なんじゃそりゃ!めちゃ個人の主観じゃん!」
父「んま〜その人の小説がヒットしてだなぁ、それ以来「深田久弥の百名山」ってことで有名になったんだな。」
しゅんち「ふぅん・・・なんだかなぁ〜。」
父「まあ、景色とかあとはロケーションとか登山のしやすさとか、まあバランスの良さで選んでるんじゃねえか?」
しゅんち「じゃあそんな理由なら、「父ちゃん百名山」を選んでもいいわけだ!」
父「ま〜・・・そうだなぁ・・・。」
しゅんちのバカ話がめんどくさくなったのか足早に登っていってしまう父。
・・それにしても百名山を選ぶには少なくとも100個以上の山を登らなくてはならないわけで、それ自体がもの凄いことなのでは・・・いやいや選ぶからにはもっとたくさん登らなくてはならないはずだ・・・それにしても一体何年かかったんだろうか・・・人間の体力の限界は何歳くらいなんだろうか・・・
などとごちゃごちゃ考えながら登山するしゅんちであった。
「八幡平からの眺め」
30分程度で頂上付近に到着。
なんともあっけない登山であった。
よく見ると近所のおばさんが小型犬の散歩がてら登山に来ていた。
まるで近所の公園レベルである。
この登りやすさにしてこの眺めを考えると深田さんが日本百名山の一つに八幡平を選んだ理由なのかと勝手に納得するしゅんちであった。
PM 3:00〜
登山を終え、一行は徐々に八幡平の峠を下り始める。
あとは八幡平ロイヤルホテルに向かうだけである。
途中トイレ休憩の為、ドライブインに寄っていく事になった。
そこでは色々と軽食も売っていて何かおやつがてら食べていくことにした。
そして、ゆでたまごを買い皆で食べることに。
しゅんちは殻をむき、塩を付けて食べようとした横で、兄の姿に驚愕。
母「はい。お兄ちゃん。」
母が兄の卵の殻をむいてあげている。
更に、一つしかないベンチのイスに全ての人を差し置いて
一人着席。
そして当の兄は何も気にせず「んぼ〜〜」とした面持ちで卵を食べていた。
母「お兄ちゃんは運転ごくろうさまだったね〜。」
皆は立って兄1人を囲むような感じでたまごを食べていた。
確かに今日は一日兄が運転だったので労をねぎらっているのはわかるのだが・・・。
エミママ「しゅんちさん!しゅんちさん!」
しゅんち「んえ?」
エミママ「さっきねぇ〜すごい事聞いちゃったんですよー!」
しゅんち「すごいことって?」
エミママ「今日の夜はホテルの近くの居酒屋に行こうかって話しになってね。」
しゅんち「うんうん。」
エミママ「お母さんこんな歌を歌ってたんですよー!」
「運転手の歌」
作詞・作曲 母
今日の運転手は〜お兄ちゃん〜♪
でもお酒飲めなくなっちゃうから〜かわいそう〜♪
だから運転手はしゅんち〜♪
運転手はしゅんち〜♪
しゅんち「な、な、な、なんじゃそりゃああああ!!」
さすがのしゅんちも堪忍袋の緒が切れ、母に訴える事にした。
しゅんち「かーーちゃん!!エミママから聞いたぞ!!」
母「あらぁ?何?」
しゅんち「居酒屋に行くとき「運転手はしゅんち〜♪」ってなんじゃああどりゃああ!?(興奮気味)」
母「げっ・・・」
しゅんち「俺はかわいそうじゃねええって〜〜だぁゃあらああああ??(言葉にならず)」
母「じょ、冗談よ。冗談。でも・・・あのお兄ちゃんがやっぱり飲めなきゃなんだかかわいそうじゃない?」
しゅんち「うっ・・・確かに兄ちゃんから酒を取り上げたら何にも残らな・・・はっ!な、何言ってんだぁああ!」
一瞬、負けそうになったが我に返り再び母に猛攻撃。
母「それにあんた飲むとすぐ寝るからつまんないのよ!」
しゅんち「う・・・。」
こうして親子漫才を繰り広げ周囲を爆笑の渦に巻き込む二人であった。
一行は休憩を終え、車に乗り込む。
しゅんちも兄との差の付け方に疑問を抱えながらも車に乗り込む。
そして車はゆっくりと走り出す。
それにしてもなんて差の付け方をする母だろうか?
その疑問も然ることながら、実はもう一つのしゅんちの心に疑問が浮かび上がっていた。
これだけ明らかな差を付けられているにもかかわらず「しょうがない」と納得してしてしまっている自分がいるのだ。
「兄ちゃんだから仕方ない」そんな気持ちにさせるのだ。
なぜだ・・・?
どうして・・・?
何がどうなっているのだ・・・?
頭を抱えながら悩ましくクネクネしていると兄が突然話しかけてきた。
兄「しゅんちー。シートベルトし忘れたから取ってくれ。」
しゅんち「ん?あぁ、はいよ。」
しゅんちは後部座席からシートベルトを引っ張ってやり兄に渡す。
兄「アコー。ちょっと付けてくれ。」
アコ「ん?あぁ、はい。」
・・・。
なんじゃこれ?
シートベルトを二人がかりで締めてもらう。
こんなことが普通ありえるのだろうか・・・?
しゅんちの脳裏にある情景が一瞬のうちに浮かび上がってきた。
〜妄想中〜
殿「よい天気だのぉ!今日は絶好の乗馬日和ではないか!」
じぃ「ははぁ!殿!」
殿「じぃ!手綱を持ってまいれぃ!」
じぃ「ははぁ!殿ぉぉ!」
殿「じぃ!気分が良いのお!」
じぃ「殿!それほどにしときませんとお体に触りますぞ!」
殿「かまわぬ!今日はよき日じゃ!がっははは」
じぃ「そろそろお疲れになったのではありませぬか?」
殿「じぃは心配性よのぉ〜がはは」
〜妄想終了〜
今気付いたが、兄の運転としゅんちの運転する場面は明らかに違うと思った。
しゅんちは真夜中の高速道路を徹夜で運転。
兄は緑深まる絶好のドライブ日和の峠道を運転。
そうか・・・
この運転は仕事ではなくまさに
殿様の乗馬。
そしてしゅんち達は殿の道楽に付き合わされたじぃと姫。
そんな答えがしゅんちの頭の中で導かれた。
しゅんち「兄ちゃんは殿なのかも・・・。」
アコ「え・・・?何?」
しゅんち「兄ちゃんは殿キャラなんだ・・・。」
アコ「え?殿キャラ?」
しゅんち「なにかお世話したくなる・・・そして、兄ちゃんに何か頼まれると断れなくなってしまう。」
アコ「ああ!そうかも!」
何か思い当たるふしがあるのか納得するアコちゃん。
アコ「前もね、うちにお客さんが来たときなんだけどね。」
しゅんち「うんうん」
アコ「お客さんにビール取りにいかせたんだよ。」
間違いない。
しゅんち「で・・・お客さんはどうした?」
アコ「ごく自然に取りに行ってたよ。」
確かに兄は人に何か頼むとその人がやってくれるまで待つタイプなのである。
例えばお酌を催促する時注いでくれるまで嫌な顔一つせずコップを出したままじっくりと待つ。
その待っている姿がなんとも嫌味が無く、逆に何か自分が試されているようなそんな気さえ起きてしまうのである。
しゅんち「兄ちゃんは殿なんだぁぁっぁあ!!」
兄「うむ?苦しゅうない。」
「兄は殿」宣言をするしゅんち。
長年の謎が氷解し、一気に納得してしまうのであった。
PM 4:00〜
一行は八幡平ロイヤルホテルに到着。
到着するやいなや母に歩み寄り「兄は殿」宣言をしたことを報告する。
母「ああ!なるほど!そりゃ納得だわ!」
しゅんち「だろ?兄ちゃんは殿キャラだったんだ!」
母「あ〜・・・どうりで私ったらお兄ちゃんには妙に気使っちゃうのよね。」
しゅんち「なんつたって殿だもんなぁ〜・・・。仕方ない。」
母「なるほど・・・。でも、」
しゅんち「ん?」
母「あんたには全く気を使わないけどね。」
一言多い母。
こうして一行は部屋を荷物に運びこんだ後、昨日さんざんやったはずのテニスを再びするのだった。
その後は大浴場で汗を流した後、ホテル内の居酒屋で盛り上がるのだった。
PM 8:00
しゅんち「っかああ〜〜秋田の日本酒はうまい!」
昨日に引き続き日本酒をあおるしゅんち。
今日の酔い方もタチが悪い。
ユッキー「でしょう?しゅんちさん。わっはは」
酔った勢いで目の前に座るユッキーに質問してみるしゅんち。
しゅんち「ところで、単身赴任はどんな感じですか?」
ユッキー「え?んん〜まあ楽しくやってますよ。わっはは」
すると横に座る母が追い討ちをかける。
母「寂しかったりしないんですぅ?」
ユッキー「いやぁ、もう気楽にやらせてもらってますよ。」
一瞬冷やりとし、フォローするしゅんち。
しゅんち「ま、またまた〜そんな事を言って〜。本当は寂しいんじゃないですか?」
ユッキー「いや〜一人が結構好きなので、全然寂しいなんてないですね〜。わっはは」
墓穴った。
しゅんちは焦りながらエミママの表情を確認した。
するとエミママは別に怒っている様子も無く、「困った人でしょ?」というような顔で笑っていた。
ユッキーとエミママは客観的にみて仲のよい夫婦だと思う。
失礼な話だが別段冷え切った感じもなく、お互いが良い関係のように思える。
しかし、お互いが離れていても別に大丈夫だと言う。
恐らく、熟年のカップルとはしゅんちにはまだわからない絆で結ばれており、多少離れていても気にならないのだろう。
若いカップルが遠距離恋愛がつらいとか言うけれど年季が違うのだ。
こうしてまた一つ大人の勉強をしたしゅんちであった。
そして二日目も日本酒で盛り上がり夜が更けてゆくのであった・・・。
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