営業マンにとって必要不可欠のアイテムといえば「名刺」。
自分の身元を一発で紹介できるという理由が1つ。
それから名刺を差し出されたらこちらも名刺を差し出すというのが社会人の暗黙のルール。
要するに相手の身元も一発で知ることもできるのだ。
そんな大事なアイテムであるにもかかわらず、しゅんちも若かりし頃は名刺を忘れるというトラブルもよく経験した。
実に無力的且つバツの悪い瞬間である。
曲りなりとも社会経験を積んだしゅんちは策として名刺忘れを防止するために二重三重に予備を作ってある。
まずいつも使う「レギュラー名刺入れ」の他に営業カバンに100円ショップで買った「第二名刺入れ」を設ける。
更に隠し名刺として営業手帳にも数枚入れ、更に営業車にも予備を常備。
更に更に、営業カバンの隠しポケットにも数枚そっと忍ばせておく。
この策のおかげでほぼ客先で名刺切れというトラブルは無くなった。
それほどに名刺というのは営業マンにとって大事なものなのである。
ある日の出張・・・
今回の出張はメーカーが開催する勉強会である。
・・・。
あああああ!!名刺!!?
胸ポケットに入っている名刺入れを確認するしゅんち。
残り4枚。
予備は・・・!?
今日は電車で出張なので、営業車はない。
今日は営業カバンではなく、出張カバンなので営業カバンもない。
今日は運悪く手帳の名刺が切れている。
予備一切ありません。
ど、ど、ど、どないしよう・・・。
勉強会を終えたしゅんちはその後の懇親会に参加した。
青ざめた顔で懇親を深めるところではない。
せめてなるべく名刺はお偉方の挨拶に使いたいところである・・・。
しゅんちは誰とも気軽に話すことができずに小さく萎縮しながら料理を細々と食べた。
気が気ではなく味なんてよくわからない。
すると・・・
おじさん「今日はどちらから?」
しゅ「え・・・あ・・・はい。松本からです・・・。」
おじさん「おーそれはそれは遠くから・・・私こういう者です。」
するとスッと名刺を差し出すおじさん風サラリーマン。
名刺を差し出されたらこちらも名刺を差し出すというのが社会人の暗黙のルールである。
しゅ「どもども、宜しくお願いします・・・。」
名刺残り3枚。
どうでもいい場面で貴重な1枚を失うしゅんち。
おじさんに長野県経済について軽く探りを入れられると、何気なくお茶を濁しながら遠ざかるのであった。
社会人的世間話はいつになっても相変わらず苦手である。
吉野「しゅんちさーん!」
フト振り返ると長野県の営業担当に声を掛けられる。
吉野「いやいやーどうも!遠いところからよく来ていただきましたー!」
吉野さんとは何度も会っているので、名刺交換は必要無しである。
吉野「いやー今日はウチの所長が是非、挨拶したいって言ってましてね。」
しゅ「あ、あっそうですか!じゃ、じゃあ是非・・・!」
名刺は残り3枚である。
所長には是が非でも名刺を渡したいところである。
同僚「あーどうも。吉野がいつもお世話になってます。」
隣に立っていた吉野さんの同僚がしゅんちに名刺を差し出した。
しゅ「いやいや、こちらこそ吉野さんにはお世話になってまして・・・。」
名刺を差し出されたらこちらも名刺を差し出すというのが社会人の暗黙のルールである。
しゅ「どもども、宜しくお願いします・・・。」
名刺残り2枚。
吉野「それにしても、所長どこいっちゃたのかな?」
同僚「さっきまでここらにいたんですがねぇ〜。」
は・・・早く会わせてくれ・・・。
吉野「あ!そうだ!折角なのでウチの事務員を紹介しますよー!」
え。
吉野「こちらが佐々木さんと三浦さんです。」
事務員A「あーどうもいつもお電話でお世話になってますー。」
事務員B「こんにちわー。」
そして2人は名刺を差し出す。
な・・・・
なんで事務員が名刺持ってんねん・・・。
名刺を差し出されたらこちらも名刺を差し出すというのが社会人の暗黙のルールである。
しゅ「どもども、宜しくお願いします・・・。」
在庫終了しました。チーン
吉野「残念ながらしゅんちさんは結婚されてます。わはは」
事務員A「あらーそうですかー残念。きゃはは」
同僚「あっ!所長!」
所長「おっ?どした?」
吉野「ほら、○○社のしゅんちさんですよ!」
所長「おーおー!いやいや、よく来ていただきました!」
しゅ「い・・・いやいや、ど、どうも・・・。」
所長「初めまして・・・こういう者です。」
しゅ「あ・・・す、すみません・・・名刺が切れてしまいまして・・・。」
所長「あ・・・そ、そうですか・・・。」
しゅ「す、すみません・・・。」
・・・・
・・・・
・・・
さっき渡した名刺を返してくれと言いたいしゅんちであった。