出張に行くことになった。
今回の出張は日帰りではなく泊まりである。
うわっやっべ!
泊まるところ予約するの忘れてた!
1人で泊まりの出張はあまりなく、ついつい忘れてしまっていた。
いつもは宿が事前に手配されていたり、後輩が取ってくれたりするのだが今回は違っていた。
というわけで慌てて楽天で宿を探してみるしゅんち。
しかし時既に遅く残っているといえば、怪しげなホテルか何か出そうな旅館。
そしてやたらと目に入るありえないほどの安い値段のカプセルホテル。
カプセルホテルというとサラリーマンのおじさんが泥酔した末に辿り着く駆け込み寺のようなイメージである。
しゅんちにとっては未体験ゾーンである。
ん〜・・・ん〜〜・・・・
何事も経験と言うしなぁ・・・。
よし!思い切って泊まってみるか!
ということでカプセルホテルにチャレンジすることにしたしゅんちであった。
・・今回泊まるホテルは「グリーンプラザ新宿」。
「ビジネスホテルを越えたサービス」というキャッチフレーズで、最近リニューアルした人気カプセルホテルであるらしい。
驚きが楽天価格で素泊まり2980円という破格のお値段。
さあ、どんなホテルなのやら・・・。
当日、仕事を終えたしゅんちは新宿駅へと向かう。
どうやら歌舞伎町にホテルがあるらしい。
そして地図を片手に向かうのであった。
が、
持ち前の方向音痴で早くも道に迷う。
地図を見ているにもかかわらず新宿駅のどの出口なのかわからず迷いに迷う。
結局30分ほど無駄に電気街を散歩をした挙句、ようやく目的地に辿り着いた。
そこはまるで雑居ビルのようである。
あまりにも人通りが少ないので疑ってみるが、どうやらここで間違いないらしい。
目の前の看板に従い1Fフロア奥のエレベーターへと向かう。
すると男性用エレベーターと女性エレベーターに別れていた。
なるほど。入り口から男女別々のフロアになっているのか・・・。
男性客の受付は3F。恐る恐る3Fのボタンを押すしゅんち。
3Fに到着すると受付フロントには男性客でひしめき合っていた。
男だらけのむさ苦しい雰囲気満載である。
まるで男の団体だけで旅行にでも来たような気分である。
列に並び、受付を済ませると鍵を渡される。
まずは荷物を置こうと鍵にかかれた番号の部屋へと向かう。
2045・・・
2045・・・
数字を辿り、2000番台の部屋を目指す。
どうやら2Fのようだ。
階段を降り、部屋へ。
うわっ・・・
なんだこりゃ・・・
目の前には予想外な光景。
これは・・・
まるで・・・
コインランドリー?
薄暗い部屋の左右にびっしりと並んだ穴。
カプセルホテルというとある程度個室になっていて人一人が入れるスペースぐらいあると思っていた。
それが丸い1mφくらいの洞穴のような穴が薄暗い部屋にひしめき合っていた。
しゅんちは自分の鍵の番号2045へととりあえず向かう。
はしごを登り、空き地の土管に潜り込む感じで部屋に入り込む。
入り口のスイッチを押すと内部の明かりがつけられた。
部屋は寝そべって過ごせる程度の広さで立ち上がるような事は難しい。
寝そべってみると天井右前に配置されたテレビをちょうど見ることが出来る。
右手にはライトやテレビのボリュームなどがいじれる操作パネル。
横幅は無く、荷物を置くようなところもない。
むむぅ・・・予想以上に落ち着かない・・・。
とりあえず、荷物を枕の横に置いてみる。
まずは着替えたいところであるが、この狭さで着替えるというのもなかなか厳しい。
というか・・・そもそも何に着替えればよいのだ?
思えば、次の日の下着とワイシャツくらいしか持ってきてないのである。
男性専用館内とはいえさすがに肌着にパンツ一丁でウロウロするわけにもいかない。
浴衣がどこかにあるかと思い、部屋を探してみるが何も見つからない。
・・・・。
まあ、とりあえずネクタイぐらいは外すか。
ネクタイを外し、横になるしかないので横になってみる。
あ、そうか外から丸見えだ。
外から丸見えになるので入り口のカーテンを閉める。
・・・。
・・・。
あれ?
鍵は掛けられないのか?
何か扉のようなものがあると思っていたが、入り口にはカーテンしかない。
貴重品やらをこのまま置いていって館内をあちこち行くわけにはいかない。
じゃあ、この鍵はなんだ?
鍵を握り締め見つめたまま、色々と推理してみるしゅんち。
・・そういえばここにいる人達は皆浴衣を着ていた。
・・まずは浴衣を探すのが一番か?
・・風呂場に置いてあるのか?
・・もしかしてこの鍵は貴重品ロッカーかなんかのか・・・?
・・ロッカー・・・?
・・・そうか!
何かを思いついたしゅんちは荷物を全て持ち、3Fの受付へと再び向かう。
すると受付横の入り口からズラッと並んだ更衣室ロッカーを発見した。
やはりこの鍵は更衣室ロッカーの鍵だったのか!
2045のロッカーを発見するとその鍵で早速開ける。
すると、中には浴衣が入っていた。
・・どうやら、ここで着替えたり、荷物をしまったりするようになっているらしい。
そして館内には鍵だけ持ち、清算も鍵だけで済ませるシステムだったわけである。
そうか・・・さっきの場所は本当に寝るだけの場所なのか。
そうと解るとしゅんちは早速浴衣に着替え、鍵を腕に付けて4Fの風呂場へ行ってみる。
風呂場にはタオルや髭剃りやアカスリや歯ブラシやら至れり尽くせり。
大浴場に加え、露天風呂、サウナと盛りだくさんである。
更にかき氷無料サービスなんてのもある。
そして風呂のいたるところに大画面のプラズマテレビが配置され、どこでもテレビを楽しめる。
ちょうど北京オリンピックのソフトボール決勝戦が行われていて、皆風呂でゆっくりしながら観戦していた。
しゅんちが頭を洗っている頃ちょうど優勝が決まったらしく、軽く歓声が上がった。
なんだか一体感を感じ、オヤジ達の仲間入りを果たしたような気分である。
・・風呂から出ると、雑誌などが置いてあるリラックスラウンジに向かう。
そこで戦い疲れたオヤジ達がソファーの上でまるでトドのように横たわっている。
しゅんちも缶チューハイを買い、普段読まないスポーツ新聞を手に取り、ソファーに座ってみる。
中央の大型プラズマテレビからはニュース番組。
先ほどのソフトボール優勝の特集をやっているようだ。
薄暗い照明の中、心地よいアナウンサーの声が室内に響き渡っていた。
ほとんど寝てるような顔つきで画面を眺めるオヤジトド達。
そうか・・・こうやって皆くつろいでいるのか・・・。
しゅんちもしばらくオヤジ体験。
そして、ほろ酔い気分で土管に戻り眠りに付くのだった。
翌朝・・・
しゅんちは朝食付きなので食堂へと向かってみる。
すると1人掛けの机がびっしりと並んだ光景が目の前に広がっている。
それはまるで
学校の教室のよう。
そして、目の前には黒板ではなく、大型プラズマテレビ。
あちこちにテレビは置かれているので好きな番組のところの席に付くシステムである。
そして、皆同じ方向を向いた異様な雰囲気で朝食を採るのだった。
こうしてカプセルホテルを楽しんだしゅんち。
すっかりオヤジ文化を堪能したのであった。
予想以上に良かったなぁ・・・。
ということは・・・
オヤジになった証拠です。
カプセルホテル・・・
オヤジ達の憩いの場である。
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