第4日目 AM 8:00〜
ホテルをチェックアウトした一行は朝食を求め車で街へ繰り出した。
母はこういう時、必ずこんな事を口にする。
焼きたての素敵なパン屋さんに行きたい。
過去の旅行記にも何度か出てきたセリフである。
母は毎回「焼きたての素敵なパン屋」を求めるのである。
お嬢様育ちだったせいだろうか、どうしても発想がメルヘンである。
今朝も例外ではなく母はそのセリフを連呼していた。
母「焼きたての素敵なパン屋がいいわ!見つけてちょうだい!」
普通のスーパー店内のパン屋ではダメなのである。
焼きたてで素敵でなくてはいけないのだ。
しゅ「お!母ちゃんあそこ見てみ!」
母「え?あ!あああ!!あれはいいわ!お父さん車寄せて!」
父「うぇ!?あんな所に停めていいのか?ええ?」
母「ちょっとぐらいならいいわよ!」
「地元の人気店(?)」
母は飛び降りるように車を降り、タカコを引きつれ小走りで店内へと向かう。
その店は「マイセン」。
地元で有名かどうかはわからないが、とりあえず店内は主婦やら女子高生で込み合っていた。
「わぁ〜焼きたてのパンだよ〜」
母は鳴門タイよりも、さぬきうどんよりも、かつおのたたきよりも嬉しそうにパンを買っていた。
こうして朝食を手に入れた一行は焼きたての素敵なパンを食べながら四国最西端である佐田岬半島を目指すのであった。
AM11:00〜
今日の予定としては佐田岬半島からフェリーに乗り、九州大分県である佐賀関を目指すのである。
佐賀関には有名な関サバと関アジが食べられる。
普通、サバやアジというと安いイメージがある。
しかし、このサバとアジはそんじょそこらの物ではなく、超プレミア級のサバとアジらしいのだ。
否応がなしにテンションの上がるしゅんち。
そして、今回それもそうなのだが、
佐賀関に行く理由にはもう一つあったのだった。
「岬を目指してドライブ」
母「今回、本当に佐賀関に行く予定でいいのかしら・・・。」
しゅ「ん?いいさ〜!なかなか行くチャンスもないんでしょ?」
母「なんだか私の事情で申し訳ないのよねぇ〜。」
実は母は幼少の頃、佐賀関に住んでいたことがあるのだ。
母にとって佐賀関は故郷のようなものなのである。
母「・・でも、いつかあなた達を一度連れて行きたかったのよ。」
しゅ「よっしゃ!じゃあ、みんなで行ってみようよ!」
「四国から九州へと渡ります」
佐賀関へは佐田岬からフェリーで70分程度。
四国から九州へ渡るのに一番近い航路とされている。
「船出じゃぁ〜碇を上げろーい」
一行を乗せたフェリーは母の故郷九州大分「佐賀関」へと向かうのであった。
PM 1:00〜
一行は佐賀関に到着。
母は佐賀関に4歳〜12歳までの8年間住んでいた。
幼少から小学校卒業前の少女時代である。
父(祖父)の仕事の関係でこの地に引っ越してきたのだ。
「煙突が見えるのが特徴だってさ」
一行はタクシーを捕まえ、母のゆかりの地へと向かうのだった。
「六柱神社でグ リ コ」
母「この神社でナーちゃんとよく遊んだのよ!」
ナーちゃんとは母の妹のナミおばのことである。
しゅ「何して遊んだの?」
母「ジャンケンして勝ったら チョ コ レ イ ト とか言って段を登るやつよ。」
その時代にもあったのかその遊び。
違う部分で驚きのしゅんちであった。
「母達の家跡地」
母「ここに家があったのよ〜。」
母は草むらをしんみり眺めると部屋の配置を身振り手振りで説明してくれた。
母「いつもここに父(祖父)が座ってたのよ。」
母は7人姉妹だったので家族としてはかなりの大所帯だった。
この跡地を見るかぎり、家も結構な大きさだったのだろう。
母「家は父(祖父)の社宅だったけど、立派だったのよ〜。」
父(祖父)は地元でも有力な企業の重役で、立派な社宅を与えられていた。
大きくて広い家には7人姉妹がいて、庭には当時としては珍しい花を植え、花盛りの華やかな家であったらしい。
しかし、まだ格差社会がある時代である。
母達一家が派手な生活を送る一方、地元に住む原住民はまだまだ貧しかった。
そんなところへ一流企業の社宅に派手な家族が引っ越してくるのである。
他にもいる社宅に住む家庭と古くから地元に住んでいる人達との溝がかなり深かったと想像される。
やはり地元の子供達にとってはその生活が妬ましく、母はよく近所の子供にいじめられていた。
今でこそあのような性格だが、当時はおとなしく暗い子であったらしい。
しかし、母(祖母)は器量のある人物で、そんな格差を気にしない人であった。
近所におすそ分けをしたり、もう着れなくなった洋服を与えていたりと近所に気を配っていたのだ。
そしてそんな貧富の差も分け隔てなく接していた母(祖母)は近所で人気者だったらしいのだ。
母「うちの母はサウンドオブミュージックに出てくるマリアのような人だったのよ。」
しゅ「というと?」
母「マリアはカーテンの生地で子供達の服を作ったでしょ?あんなことをしたのよ。」
しゅ「へぇ〜・・・。」
母「当時としたら珍しい、三段ギャザーのフリルのスカートなんて作ったりして。」
三段ギャザーのフリルと言われてもイマイチピンとこないしゅんち。
母「で、兄弟みんなに着せるでしょ?みんなでお揃いなのよ。」
しゅ「ああ、同じ生地で出来てるからね。」
母「でも姉のおさがりとかしていくと一番下の子の服が着れなくなるわよね。」
しゅ「ん?ああ、順々に上からお下がりしていくのね。」
母「そしたら母(祖母)が近所の子にその服をあげちゃうのよ。」
しゅ「ん?いいんじゃない?その時代だと捨てるのかなりもったいないでしょ?」
母「私はそれが本当に嫌だったのよ!」
しゅ「え?なんで?」
母「だって、隣の家の子と私がお揃いになっちゃうのよ!」
近所のあの子とペアルック?
そりゃ困るだろうな・・・。
同じ服を着た人と会うと妙に恥ずかしく気まずいものである。
「工場が海辺にある」
一行はタクシーに乗り、母の思い出話を聞きながら観光地へと向かうのであった。
「遠くに見えるは高島」
関崎海星館に到着。
ここは高台になっていて、遠くに高島という島が眺められた。
「地中海みたいな眺め」
母「あの高島へは父(祖父)と釣りをしに船で行った事があるのよ。」
しゅ「へ〜。」
母「ウニなんか採れたのよ。」
しゅ「ウニ!そりゃいいな〜。うまいの?」
母「どうかしらね〜・・・子供だったから味の良し悪しはわからなかったけど。」
「黒い浜辺が珍しい」
次に黒浜に向かった。
ここは渚100選に選ばれる割と有名な浜である。
黒いつるつるとした石が特徴的である。
母「ここには昔、遠足で来たのよ。」
しゅ「ところでさ、初恋とか無かったの?」
母「え!?」
しゅ「小学校高学年だったらありそうじゃん。」
母「な・・・ないわよ・・・。」
しゅ「あっそ・・・。」
母「・・カマタ君よ。」
白状させました。
・・どうやら、同じ社宅に住む人に憧れていたのだった。
もう今はどこで何をしているかはさっぱりわからないらしい。
PM 2:00〜
一行は関アジ、関サバを食べるためお店を訪れた。
もうすでに昼過ぎで、目をつけていた店が昼休憩に入ってしまったらしく、宛てがなくなってしまった。
タクシーの運転手は気を利かせ顔なじみの店へと連れて行ってくれた。
運転席から降りるとお店へ交渉しに行ってくれた。
タクシー運ちゃんファインプレーである。
「タクシーの運ちゃんのいきつけかな?」
一行が訪れたお店は「太幸丸」。
地元雑誌にも載っている割と有名な店であるらしい。
「アジもサバもなんとなく似ている」
早速、関サバ関アジを食してみる。
パク・・・
ギュッと身が引き締まり、歯ごたえがある。
そしてその身からはじんわりと濃厚な魚の旨みが口の中で広がる。
この味はしゅんちの知っているアジやサバではない。
この味は・・・
ハマチの味だ!
舌触り、歯ごたえは鯛。
味は脂の乗った極上のハマチ。
父「この魚を普通に食べようと思ったら、東京辺りの高級店でしか出ないだろうな。」
しゅ「そ、そうなんだ・・・。」
父「なんか、ネットとかそういう通販で品切れ状態だって聞くしな。滅多に食べれるもんじゃないんだぞ。」
しゅ「へ、へぇ・・・すげえな。」
父「普通だと一皿5000円くらいするんじゃないか?」
サバやアジというと一番安いとされている魚である。
しかし、この魚はまるで高級魚扱いである。
しゅんちはプレミア刺身を丁寧に味わうのだった。
母「昔は地元の方からよくこのサバを頂いてねぇ・・・。」
しゅ「へ、へえ!凄いじゃん!高級魚食べ放題じゃん!」
母「でも、当時は価値がよくわからなかったのよね。」
しゅ「やっぱりおいしいって思ってた?」
母「んー・・・魚がおいしいというより、母(祖母)の料理がおいしいと思ってたわね。」
しゅ「料理?」
母「貰ったサバを丸ごと味噌煮にしちゃってたのよ。」
高級サバがサバの味噌煮へと。
なんとも勿体無い話である・・・。
PM 3:00〜
一行は昼食を済ませ、街中を散歩することに。
「古い町並みだなぁ」
古びた家が立ち並び、生活感が漂った町並みである。
「生活感あるねぇ」
母も幼少の頃にこの辺をよく歩いたのだろうか。
「はやすいひめじんじゃと読みます」
早吸姫神社に到着。
ここには学校帰りによく寄り道したらしい。
「ふじが綺麗です」
7人姉妹の6番目の母は一番下の7番目の妹と仲がよかった。
歳が近いということと、波長が合ったということもあって毎日親友のように遊んでいた。
その妹がナミおばなのである。
まだ小さかったナミおばを連れて、母は学校帰りによくここに遊びにきていたという。
この池には大きな亀が何匹もいて、ナミおばがそれを眺めるのが好きだったからだ。
亀は万年という言葉どおり当時と同じ亀かはわからないが、池には本当に亀が沢山居た。
しゅんちはしみじみした気持ちで亀を眺めた。
幼き頃の母とナミおばもこうして池の亀を眺めていたのだろうか。
「つつじが咲き誇る神社裏手」
神社の裏にはつつじが咲き誇り、とても良い雰囲気であった。
一行はそれぞれに記念撮影をしたのだった。
「夕暮れの港」
夕方も近くなり、時刻も夕方近くなり、そろそろフェリーの時刻が迫っていた。
一行は海の見える海岸沿いをブラブラと歩きながらフェリー乗り場に向かっていた。
50年近く前の故郷・・・。
しゅんちの故郷といえば長野市である。
車で1時間程度の場所であるが、その場所に帰るとなんとなく懐かしく昔を思い出しノスタルジックになってしまうものである。
母の故郷は遠く九州佐賀関。
人生で何度もこれる場所ではない。
母は今どんな気持ちなのだろうか?
ひょっとしたら、あの頃の出来事を振り返っているのだろうか。
今は亡き、父(祖父)と母(祖母)の事を考えているのだろうか。
今は無くなってしまったあの花が咲き誇る大きな家を思い出しているのだろうか。
しゅんちは初めて来た場所なのに、なぜだか懐かしい気持ちになるのだった。
そして切ない気持ちがこみ上げた。
「夕日が沈んでいく・・・」
そんな気持ちを押し隠し、しゅんちはフェリーに乗り込む。
夕日が沈みかけている。
母の故郷と一緒に夕日が遠ざかっていく・・・。
50年前の幼き日の思い出と共に・・・。
・・こうして、一行は佐賀関を後にし、再び四国へと戻るのだった。
ついに明日は最終日である。
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